Saeri blog

「好きなことを仕事にしたいんですけど、本当にそれがしたいことなのかいざとなったらわからなくなって、進路が決められなくて、悩んで苦しいです」

by さえり

最近twitterをフォローしてくれている色んな人からこんな相談を受ける。

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好きなことを仕事にしたいんですけど、本当にそれがしたいことなのかいざとなったらわからなくなって、方法もわからないし進路も決められないし、悩んで苦しいです。

イベントなどでもこういった類の質問はよく受けていて、わたしはそのたびに「焦らなくていいんじゃないか」と答えている。

やってみないとわからない

わたしは昔から「書くこと」が好きだったけれど、それを「仕事にできる」とは思っていなかった。書くことは好きと言いつつも作品を何個もつくって文芸誌に応募したこともないし、作文で最優秀賞を取ったこともない。日記でさえ"3日に1回程度"の更新頻度しかキープできず、こんなので「書くことを仕事にできる素質」があるとは思えなかった。

それにそもそも「書くことを仕事にする」方法も職種も、知らなかった。作家? 詩人? 作詞家? 絵本作家? 新聞記者? ライター?

強いて言えば、作家になりたかった。小説を書いたりエッセイを書いたりする人に憧れていたけれどそもそも入り口がものすごく狭いことくらいはわかっていたし、どんな生活なのか想像もつかず、別に文学少女でもない自分には無理だ、と決めつけた。そのほか新聞記者やライターというものも思い浮かんだけれど、その人たちが何をしている人なのかちっともわからずに一歩も前に進めなかった。書きたくないことも書かなくちゃいけない生活なのかとか、好きなことを仕事にしたせいで嫌いになったらどうしようとか、色んな答えのでないことをひたすら杞憂し、勝手に元気をなくした。

「書く」じゃない道だと、なんだろう。「企画」も好きだな。「企画」ができる仕事って何かな。「広告」かな。なんて思ったけれど、「絶対絶対絶対に広告業界に行きたいです!!!」と目をキラキラさせる"広告研究会"の学生を見て「広告が何をやっているところなのかもわからないわたしには無理だ」と思った。じゃあ「出版」はどうだろう、と思ったけれど「徹夜は当たり前」と聞いて後ずさりした。

今思えば、学生のうちに「やりたい仕事を見つけろ」なんて無理な話だ。やったこともないし、やってるひとも近くにいないし、「仕事」のことを全然しらないんだから。

就職から転職まで

結局就職活動の波に乗れなかったわたしは、大学3年のころから「自分が生きる道は自分で作りたい」などと意識高めにがんばって簡単に体調を崩した。「NYで暮らしながら日本と仕事したい」とか「友人の会社で働くかも」とかそんなことも言っていたけれど、実力の伴わない夢は本当に夢物語にすぎず、知恵もツテもたいした熱意もないわたしには何も叶えられなかった。1年間実家の山口県に帰り「やっぱり、社会の流れに沿わずに自分で道を作りたいなんて無理だったんだ」とすっかり自信をなくした。

1年休学して復学した頃にはあの元気も自信も夢や希望などあらゆる欲がすっかりなくなって「なんでもいいから生活できるだけのお金を稼ぎたい」としか思えなかったし、理想を語って自信を喪失するのはもう嫌だった。大手の会社に就職できるような性格ではないと思っていたので、就活しながらバイト暮らしでもするかと心を決めた頃、たまたま声をかけてもらったのが「出版社」。意識高く動いていたときに知り合った社長が、わたしのブログやFacebookの投稿を見てくれていたことがきっかけとなった。都内にあるとても小さな出版社だったけれど「言葉の周辺にいられる」ことが嬉しくて、そこにお世話になることにした。

出版社にいたのはたった1年。編集をメインに、営業などなどちょこちょこと経験させてもらったけれど、いろいろと理由があって「辞める」という選択肢が毎日頭に浮かぶようになり、オリオン座が出る季節には「やっぱりわたしは書きたいんだ」と夜道で泣いた。

けれどそれは「苦しさから逃げるために昔の夢を持ち出しただけ」で、実際には何もできなかった。

知り合いの男性は辛辣に言葉を放った。

男性

本当に書きたいんだったら、バイトでもキャバクラでも風俗でもパトロンのおじさんを探すでもして生活を確保して書けばいいじゃん。"自分の思うような綺麗な道だけを辿って書きたい"とか思ってんじゃないの? じゃあきみが生活できるだけのお金を僕が出すと言ったら、本当に書く? 条件は僕と一緒に暮らすことだけど。

何も言えなかった。キャバクラや"パパ"や好きでもない人の家で暮らすことが悪いとは思わなかったけれど、それはつまり「書く」を決意することであるし、わたしにはその勇気はなかった。「その程度なんだね」と言われた。「その程度なのか」と自分でも思った。

結局、就職先を決めずに辞めまっさらな状態になった途端に縁がうまれた"LIG"という会社に就職して編集のお仕事をした。「書く」ことはいつか考えようと思っていた。

ITベンチャー企業がどんな場所かわからなかったしかなり忙しいことは覚悟していて「体力の自信がない」とか「若いひとに囲まれてウェイウェイしてる職場は怖い」とかいろんなことが頭によぎったけれど、まずはやってみようと決意して「いつか書くこと」を頭に置いたまま必死で働いた(結果、ウェイウェイしてなかったし、忙しかったけど楽しかった)。

そうして働くこと1年と2ヶ月。いつのまにか「書く仕事」1本で食べていくフリーライターになっていた。本当に”いつのまにか”だった。"パパ"もいなければ他人の家で暮らしてもいない。自分で書いて稼いだお金で、新しく家も借りた。

冒頭の質問に戻る

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好きなことを仕事にしたいんですけど、本当にそれがしたいことなのかいざとなったらわからなくなって、進路が決められなくて、悩んで苦しいです。

これはそのままわたしに置き換えられる。「好きなことを仕事にしたい」けれどそのために何もかも手放すほどの熱意もなく、忙しいと聞けば挫け入り口が狭いと言われたら諦め、でも「好きなことがしたい」なんてわがままを言って一歩も進めなくなる様子。

もしかしたら「好きなことは仕事にするな」とか「好きなことを仕事にしたいなんて無理だよ」という大人もいるかもしれない。「20年働いたあとにできるようになるよ」という大人もいれば、逆に「やりたいならすぐにでもどんな手を使ってでもやってみなよ、できないんだったらあなたの夢なんてそんなもんなんだよ」とあの頃わたしも言われたようなことをいう大人もいるかもしれない。

わたしはこう言いたい。

「ゆっくりでいいんじゃないか?」

そんなすぐに夢を叶えようとしなくてもいいじゃない。そんなすぐに「好きな仕事」をしなくてもいいじゃない。時には「これは夢とは全然違う道のりだ」と思うこともあるかもしれないけれど、今よりももっと先に自分のやりたいことをぼんやり描いておけば点はいずれ線になる。目の前のことを頑張る期間は「とりあえず3年働け」とか「会社の仕組み的に融通が効く役職になるまでの20年間」という意味ではない。「心が本当に違和感をおぼえて走り出さずにいられなくなるまで」でいい。

立ち止まって考えて悩んで死にたくなって涙でオリオン座が見えなくなる日も、やりたいことを「逃げ道」以外でずっと持っていれば、いつか何かしらの形で近づいてくる。その瞬間を逃さなければいいんだと思う。

だから冒頭の質問には、こう答えている。

わたし

わからなくなってるなら今はまだ進まなくてもいいんじゃない?

焦らなくて、いいんじゃないかな。

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