Saeri blog

大人にはファンタジーがよく分かる。「はてしない物語」

by さえり

はてしない物語。

ずっと読みたくて、でもあの分厚さに手が出なかったけれど、ようやく読めた。

読み始めてすぐにオリーブ色の肌のアトレーユと一緒に冒険をして、憂いの沼に沈むアルタクスに涙して、やがてバスチアン本人が自分を探す旅に出た辺りからは眉間にしわを寄せてずっとハラハラして、何か苦いものを噛むような顔つきで次々読み進め、気づいたら物語は終わっていた。

いや正確には終わったのではなくてはじまったような、何かそういう気持ち。

多分この本を真剣に最後まで読んだ多くの人が感じたと思う、ずっと手にしていたこのあかがね色の本がとんでもない効力をもっているのではないか、と少し恐れてしまうような感覚。

この本に隠れている多くの驚きについて語り始めるとそれこそはてしなくなってしまいそうなので「ファンタジーと現実」について少し思ったことを。とりとめもなくて、読みづらいかもしれないけど。

この本を読み終わって感じることのひとつは、ファンタジーの世界(ファンタージエン)と現実はこんなにも近くにあったのだと、驚くことだと思う。もちろんストーリーのように、読者が本の世界に身体ごと入ってしまうようなそんな大胆な混じり合いはしないけれど、読む前までとても遠くにあったファンタジーの世界が、手元まで、いや目の前まで近づいてきていることに気づく。それは読み終わった後に登場人物の何気ない言葉を反芻したり、いまもどこかではてしない物語が綴られているかもしれないと空想したり、またいま私がしているようにすぐにこの本に関する感想を語らずにはいられなくなったり、そういう形で現れる。

じっさい、読者が読んでいるその本がバスチアンが持っているそれと全く同じ装丁であることも含め、ミヒャエルエンデはファンタジーと読者をできるだけ近づけようとしている。

そもそもストーリーのなかでも、ファンタージエンは現実世界がなければ存在できないとあれだけ説得力のある語られ方をしているではないか。ミヒャエルエンデは物語を紡ぎながら、ファンタージエンと主人公バスチアンと、そしてそれを読んでいる私たちの三方向に向けて、「いかにこの二つの世界が結びついているのか」を、ーもう一度言うが物語を紡ぎながらー、教えてくれる(普通できることではないと思う)。

読み終わって思う。

やっぱり、ファンタジーは現実の中にあるのだ。または現実の中にファンタジーがあって、ふたつは、ふたつでひとつなんだ。現実世界でファンタジーが作られることを思えばそれはごく当然なのだけど、なぜだか「ファンタジーは現実ではない」としばしば言われがちだ。現実世界に生きた人が作ったものが、現実ではないわけがないのに。いや、たしかに現実を目に見えるものだけだとするならば、間違いなくこれらは「現実ではない」けれど、目に見えないものは「現実ではない」と取り合わないんだとすればそんなのあまりにも偏っている。そんな人たちばかりでは、宇宙は見つからなかっただろうし、コロンブスの航海は成功しなかっただろう。そういう、「信じていた現実」の覆しがなんども起こったのに、まだ「目に見えないものは現実ではない」という論を繰り返す人がいるのなら、いい加減学んだらどうだとでもいいたくなる。

ともかく、ファンタジーは現実の鏡だ。

大人になってファンタジーと呼ばれるものを読み返した人たちが、その面白さにまだ楽しめることに驚くだけでなく、胸に刺さるような新しい気付きを得るようなことが多々あると思う。

たとえば、「星の王子様」や「モモ」、「はてしない物語」に「ゲド戦記」、「指輪物語」や「ブレイブストーリー」。

どうして「子供向け」といわれるファンタジーがこんなに大人に響くのか、と問われたら、たぶん現実をよく見たからなんだろう。きっと大人にこそよく分かる話がここにはたくさん詰まっている。子供の頃はただまだ見ぬ空想上の生き物たちに心を躍らせていたのが、今となってはそれらが語る真実のほうに目がいくようになる。空想上の、ありえない、みたこともない生き物たちは、つい最近わたしが思い悩んでいた心の葛藤について素晴らしい助言をくれる。押し付けがましくなく、わたしに直接語りかけてないように見えるように、ごく自然な形で。


いままで目の前のあれこれに気を取られてよく見えなくなっていた現実が、ファンタジーという物語に姿を変えた途端、スッと紐解かれて頭に入る。こんなの、どう考えてもファンタジーと現実はふたつでひとつだとしか思えない。

どちらか一方しか見れないようにはこれからもなりたくない。ここにあるものはすべて形を変えて、違う場所で存在できることを忘れちゃいけない。

とりとめもないけれど、白と黒の蛇が互いの尻尾をお互いに噛み、世界が崩れないために互いに互いを離さないようにしているように、ファンタジーと現実はしっかり結びついていなければならないと、書き記したいと思った。それに、それらを結びつけるのが大人の役割(無論わたしも含まれる)だろうとも。

ファンタジーは大人にこそよく分かる。いまこの物語に会えてよかった。

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